「ハイエンドオーディオ」の定義の現在地 前編

2024年の年明け早々にX(旧twitter)でハイエンドオーディオに関する某雑誌社のアカウントが発した引用リポストを発端にXオーディオ民達がざわついたという一幕があった。今回はこの件をきっかけに「ハイエンドオーディオ」の定義の現在地について考えたことを記す。書いている内に長くなってしまったので今回はその前編

なお、件の引用リプライの内容についてはこの記事では取り扱わない。お…おまゆうだなんて言わないんだからね!

目次

一般知識としての「ハイエンドオーディオ」の定義

ハイエンドオーディオを語る上でこの記事を読んでいただいている方と文脈をある程度合わせるため、まずその前提条件・共通認識となる一般知識としてのハイエンドオーディオの定義についておさらいしておきたい。

(※この項に関しては今回の記事の本題ではないこともあり、情報ソースを入念に調べる事はやっていないため私の認識に誤りがあるかもしれません。私の理解が誤っているとお気づきの方は遠慮なくソースも併せてご指摘いただけると大変有難く思います。その際は適宜記載内容を修正しようと思います。有識者の方、よろしくお願い致します。)

Harry Pearson氏(”High end”という言語の起源)の定義

一般に”High end”という言語はThe Absolute Sound誌の創始者であるHarry Pearson氏が起源だと言われている。そしてその定義は「録音時に音源に込められたサウンドステージを再現するオーディオシステム(※私の理解で原文では無いです)」であり、3次元的なサウンドステージと音像定位を兼ね備えまるで録音時の演奏風景がそこに現れたかの様な再生を目指すものだ。

この定義は現在の日本でもしばしば引用されるもので、例えば某魂の中の無帰還の人も自社製品のフィロソフィーを語る上でこの定義を引用しているのを目にしたことがある。無帰還の人曰くこの観点から「ウチの製品は全てハイエンドです」とのことでほんまじょうずに自社製品の宣伝に転用しはるものどすなぁと感心してしまったのを覚えている。

今回のXでの某雑誌社の引用リポストもこの無帰還の人と似た様な文脈で発したものだと思われるが、いかんせん某誌がこれまで何十年も積み重ねてきた取扱い製品群やその紙面で語られてきた思想とあまりにもかけ離れていたことが致命的であったと言えるだろう。アーメン…

「ハイエンドオーディオ」の定義の現在地

さて、ここからが本題。前項の様な起源や日本の評論家による定義はありつつも、それがそのまま現在を生きる日本のオーディオファイルの実感を伴う共通認識になっているのだろうか?

その答えは”No”だろう。私がこの記事を書いている2024年現在、現実には「ハイエンドオーディオ」≒「高価格帯のオーディオ」という共通認識になっているのが起源や綺麗事を抜きにした実態であることは多くの人に同意いただける事かと思う。

もちろんこのテーマを書く発端となったXでの雑誌社の方のポストの様にオーディオをする上でのマインドはとても大切であるし、機材の価格帯関係なく各々が自分を取り巻く様々な事情が許す範囲の中でオーディオに取り組むことが健全なオーディオの在り方だと私も思っている。また、オーディオの価値はそれを行う各々が決める事であって、高価な機材を使ってシステムを組むことこそ価値が高いとは毛頭申し上げるつもりはない。

だが、そういう理想論だけでは全てを語ることは出来ないのもまた現実。不都合でも現実から逃げずにきちんと認識し、そこに立脚して自らのオーディオの在り方を模索し落としどころに着地する方法論を私はこのサイトで語っていきたいと思っている。他の記事でも度々書いていると思うがオーディオは認知がベースであり、その認知は何も音質に関するものだけではない。自らやオーディオを取り巻く現状をきちんと冷静かつある程度の客観性をもって認識することもまたオーディオの音に現れてくる。いや、むしろより根本的なものであると言えると思う。

話が脱線してしまったので本筋に戻すと、現在は「ハイエンドオーディオ」≒「高価格帯のオーディオ」という共通認識になっていることと併せて、そのハイエンドオーディオの音質の特徴についてもある程度の共通認識が出来てきていると私は感じている。「その特徴を出すのがより得意なオーディオ機器≒ハイエンドオーディオ機器であり、その機器には価格も高価な値段が付けられている」というのが2024年現在の「ハイエンドオーディオ」にまつわる現状であると感じている。

現在の「ハイエンドオーディオ」の音質の特徴

それでは次にその現在の「ハイエンドオーディオの音質の特徴」とは何かについて、私がこれまで様々なハイエンドオーディオ製品を聞いてきた経験値から作られた個人的な認識をまとめてみたい。

現在の「ハイエンドオーディオ」の音質の特徴
  • 音源に入っているサウンドステージの高い再現性(現在でも大前提であり大目標)
  • 高SN
  • 余韻の表現
  • 高低ともワイドレンジ
  • X/Y/Z方向の3軸とも揺ぎ無くピンポイントに収束する音像定位

まず第一に挙げるべき特徴で現在でも大前提であり大目標であると感じられるのが音源に入っているサウンドステージの再現性だ。特徴として何点か挙げたが、その多くがこのサウンドステージの再現性の向上に大きく寄与する項目となっており、このことからも現在に於いてもハリー・ピアソン氏が提唱したもともとの定義が製作者やユーザーに深く根差していることが分かる。私自身もやはりこの点を最重視してオーディオをやっているし、一番のオーディオの醍醐味だと感じている。未だに魔法の様にも思えるし、より多くの人がこの魔法と共に音楽を聴くことを楽しんで欲しいという思いもこのサイトを作った理由の一つになっている。

次に大きな特徴として挙げられるのが高SNだ。音源の再生と同時に一瞬にしてその場の空気感がパッと変わるこのSNの高さはハイエンドオーディオのアイコンの一つで非日常の世界へ切り替わった感覚を聴くものに与える。また、この高SNは前述のサウンドステージの再現にも寄与していて、背景を黒く沈ませることでステージの広がりをより視覚化させてくれる。

3番目にこれも大きな特徴として余韻の表現が挙げられる。これは先に挙げた高SNがあってこそ成せる業でもあるが、音が引いてその余韻が尾を引いて綺麗に減衰していく様はまさにオーディオならではの愉悦。特に近年ではその音の引き際の表現にハイエンド各メーカーの世界観が凝縮されている様に思える。

最後にワイドレンジ、音像定位あたりも忘れてはならない特徴のうちの一つだろう。

以上のことを総合すると、現在のハイエンドオーディオの音質とは、その元々の定義であるサウンドステージの再現に関するものから拡張されていて、聴く者をハッとさせ日常から一歩進んだ非日常の空間へ移行したという感覚を呼び起こさせる様な種々のアクセントを付けたものだと言えるのではないだろうか。

そしてこの拡張された領域は年々徐々に先鋭化しており、それが現在のハイエンドオーディオが賛否両論となっている要因の一つとなっていると私は考えている。

前編はここまで。


後編ではハイエンドオーディオの音質の負の側面について整理し、最後に私が考えるハイエンドオーディオの着地点について提案する。よろしければ後編もお付き合いいただけると幸いです。

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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