オーディオ界隈でループする話題の中でもド定番である「オーディオ業界このままではアカンやろ」の季節がまたXで巡って来た。オーディオショウに引っかけた亜種だが。今回はこれを起点にして考えた事を書きたい。
オーディオ業界論に対する基本的スタンス
オーディオ民の中で度々ループするオーディオ業界論。それに対する私の基本的な態度は「しゃあないからほっとけ」だ。ユーザー側の関与する領域ではなくどうこう言っても無意味だと考えている。それどころかネガティヴな場の流れになるので害しかない。
ユーザーが売り手側の施策にグダグダ不平不満を言っていても仕方がない。ガス抜き程度で「代理店値上げし過ぎやねん!高杉!泣きたい」シンプルにこれだけで良い。私もたまにやる。
もし自分の愛する趣味の将来を本当に憂うのであればユーザーの立場でやれることを考えて行動した方が余程建設的だ。自分の行動で示して、それに共鳴するユーザーや業界の人間とコラボして輪を広げて行く。何かやるとすればそういう方法論がまともだと思う。
当事者でない素人の提言程度はただの与太話の域を出ない。居酒屋でプロ野球を見ながら「なんでそんな配球すんねん!アホか!」とクダをまいている酔っ払いとやっている事は同じだ。
相手が20代の若者相手なら百歩譲って老婆心からと言うのもアリではあるが、オーディオ業界は大半が50,60代以上の人間。部外者からの通り一遍の提言など余計なお世話でしかない。
メーカー・代理店・ショップにはそれぞれの置かれた状況がある。
愛想が悪いだの、挨拶がないだの、スマホ触ってるだの、色々言われているが、そうなるだけの理由があり、現実があるということ。
気に食わないのならユーザー側がそんなショップや代理店からそっと身を引いて自分がより好ましい信用出来る応援したいと感じるショップに行けば良い。
余談になるが、実は私のメーカー・代理店・ショップに対する印象は今回の話題の発信元の印象とは結構異なる。オーディオショウで苦言を呈したくなるほど残念な姿勢なのは見た事がない(基本的に熱心に職務に携わっておられると感じる)。ショップも家電量販店の様な接客ではないが8-9割が商売としてまともな対応をしてくれていると感じる。なので不幸にも変なのに当たったら次に行けばそこがまともである可能性は高い。それだけの売り手側の陣容はオーディオ業界はまだまだ維持している。これが私の認識だ。
話を戻そう。
業界は縮小の一途だが、外から見るとその中の構造は変わらない様に見える。本来業界を啓蒙し、流れを牽引すべき評論家()はメーカーに飼われ相も変わらぬ提灯記事を恥ずかしげもなく繰り返し、これまでの自らの行いで失ったユーザーの信用を取り戻す方向には全く動かない。支持を失っている従来の方法論を変えようとせず、小さくなったパイの中で椅子取り合戦・ポジションの確保しか発想が無い様に見える。
それでもその小さなパイの中でポジションを取れれば生きていけるから良いのだ。そう思っているとしか感じられない。でもそれはそれで1つの生き方なので多少失望や軽蔑はするが否定はしない。生きて行くのは大変なのだから。
また、そういう個々の人間とは別に業界全体の向いている方向として「逃げ切ろうとしている」と以前からずっと感じている。
業界の中で今後長期スパンで現在の規模感での存続を考えている人はかなり少ない。というか居ないのではないか。これは業界の高齢化と切り離せない問題だ。自分の引退が見えていて、業界が衰退して先が明るくない現状があって、果たして新しい種を蒔く気になるだろうか?
経営者やマネージャークラスならば意識も高く視野も広く持てるだろうが、プレイヤークラスは?がつくのは仕方がない。世の中そういうポジションの人はゴマンと居て、そういう人が居るから世の中が回っている。私はそれで良いと思うし、それでもポジション以上に奮い立って意識を高く保てと言う気にはなれない。
長くなったが以上が私のオーディオ業界に対する認識とスタンスだ。滅びに向かって進んでいる現在の流れを追認し、大きく状況を変えようとはしない。それで生きていけるしそれで良いと思っている。そう見える。だから外野がとやかく言うのは野暮なのだ。
なのでここではそういう製品の提供側の立ち位置からは完全に離れる。音楽とオーディオを愛する40代で今後20-30年はオーディオをやりたい。そしてこの趣味の魅力を今後も多くの若い人達にも感じて欲しい。そう思っている素人の私の立ち位置から話をする。
「なんでそこでスライダー続けるねん!ストレートやろ!」という居酒屋の与太話を。
オーディオショウをどうするのか
オーディオショウはハイエンドオーディオ機器を目玉とするのが業界の通例なのでこの記事ではそれを前提条件の軸として設定し、以降の論を展開する。
オーディオ業界とオーディオショウの現状
まずオーディオ業界を取り巻く現状の認識の確認から始める。
現状のオーディオ業界が富裕層向けに舵を切るのは仕方がない。現在のハイエンドオーディオを支えているのは間違いなく一握りの富裕層。その人達のお陰でメーカーや代理店やショップが回っているということはお気持ち抜きにちゃんと現実として認識し、それを土台としておかないとまともな議論が出来ない。
この土台に乗ると見えてくるのは、その現在のオーディオ機器の売り手側のターゲットである富裕層はオーディオショウを重視していないであろうという事だ。なぜなら、懇意にしているショップに自宅試聴をお願いすれば大抵何だって叶うのだからわざわざ自宅より環境が悪いオーディオショウで聞く必要が無い。
つまり現在のオーディオショウは売り手側から見たメインの顧客ターゲット層と実際にショウに期待して訪れている層がズレていると言える。
この不健全な状態がそのまま出展者側の「職務には真摯だが突き抜けない本気度」に繋がっていると感じる。だってここで突き抜けるほど頑張っても自社の売上や利益に大きくは繋がらないから。
そして上記の売り手側の状況と似た様な事が参加するユーザー側にも言える。つまりショウでの体験が自分の現実のオーディオと繋がらないのだ。だって今後の人生でどう頑張っても買えないから。
そうなるとどうなるのか?「ショウで聞いたハイエンドは音が悪かった」と鬼の首を取ったかの様に意気揚々と喧伝し、自分を慰める材料とする人も少なからず出てくる。だって食べれない葡萄は酸っぱい方が良いから。
この様に出展者側も来場者側もいわばショウの本来の趣旨を外れて迷子の状態。これが現在のショウの実態だと感じる。
つまり、趣旨や目的ベースで様式の見直しを行わず、従来の様式を脳死でひたすら踏襲して来たことで現実と大きく乖離をきたしており、結果としてショウとしてどこに目線を向けてやるのか、ターゲットやコンセプトが不明確になってしまっている。問題点はここに尽きると私は思う。
具体的には、以前はハイエンドオーディオ機器をショウで展示し、試聴して興味を持って貰えれば「いつかは〇〇」という実現可能な目標と設定してもらえて、実際に買って貰えた。
それが昨今のハイエンドオーディオ機器の超高額化で状況は一変し、一般のサラリーマンにとってその機器を購入する未来の自分が想像出来ない射程圏外にまで行ってしまった。つまり従来のモデルケースが通用しなくなった。
本当はここでショウのやり方を見直す必要があるのだが、それをせずひたすら同じことを繰り返した結果、もはや何のためのものなのか出展者側も来場者側も分からなくなっているのがオーディオショウの現状だと感じる。
現状に即した新しいオーディオショウの形
ではどうするのか?
新天地を探す?
ここで少し目線を移せば、イヤホン・ヘッドホンが今まさに「手の届くハイエンド」という価格帯で一昔前のスピーカーオーディオのハイエンドの様な位置付けで市場を形成しつつある。
しかし、そんな焼き直しの様な事をしてもゆくゆくはスピーカーと同じ事態になるのは目に見えている。そしてその兆候は早くも出て来ている。場所を変えて同じことをやっていたのではただの焼畑農業でしかなく先は無い。ヘッドホン・イヤホンの次はどうするの?完全ワイヤレス?馬鹿馬鹿しくて話にならない。
そもそもヘッドホンやイヤホンはスピーカーの代替品とはなり得ない。それぞれの方式に間合いがマッチングする音源を聴くために使い分けるのが本筋だとの考えに私は行き着いたのだが、それについてはまた別の機会に。
話を再び元に戻そう。
ではどうするのか?
やはり種を蒔くしかない。
私が提案したいのはオーディオの凄さ・面白さ・奥深さを提案すること。単純に言えば「オーディオってすげー」とか「オーディオって面白い」とか来場者に思わせること。
人が何かを本気で始めるきっかけとなり、かつその後の原動力となるのは感動体験だ。その感動は従来の踏襲のいつも通りのショウでは足らない。もっともっと感動させる努力をしなければ。
ものすごく雑に極論で言うと、ショウの音が微妙だから、ショウのプレゼンがイケてないから、オーディオの裾野が広がらないし深くハマる人が少ないのだ。
ついでに言ってしまうと、とにかく売り手側の人間はちゃんと理論を勉強して欲しい。不誠実な売り方はやめて欲しい。若い人はとてもその辺りに敏感だから手抜きや騙しはすぐソッポを向かれてしまう。
特性の良い中華製品、特性も良く補正も効く制作用アクティブスピーカー、プロ機、このあたりが現代の若者がリサーチして行きつく選択肢の中心だと認識しているが、それらの良さを理論と聴感で把握した上でそれでもコンシューマーオーディオ機器を提案出来る知識と経験と情熱が欲しい。
またまた脱線したので話をショウに戻そう。
そこでショウのコンセプトとして「夢」を、ターゲットとして「将来のある若者」を据える。
ショウの「夢システム」でインパクトを残しオーディオをやる動機づけをして、そこからショップでは夢システムのエッセンスを感じられる現実的なシステムで地に足のついたステップアップを提案する。今の日本人の給与所得から現実的な提案を。
もはや一般人ではハイエンドオーディオには道が繋がらない。繋がらないのであれば開き直って「現実とは繋がらない夢を提案する」「本気のハイエンドオーディオを認知してもらう」という様にコンセプトを明確化する。アトラクションの様なイメージだ。
奇しくも以前某ショップブログでselect dacの試聴会をして「アトラクション」と評していたがまさにその通りで、例え自分のシステムに直接は繋がらない超高額機でもそれを聞いた経験は驚きや感動が大きければ大きいほど深く自分の中に刻み込まれる。そしてそれはその後のオーディオ人生での糧となる。
こういう観点で見ると、3/2に企画されているハイエンドヘッドホンのイベントは個人的に高く評価している。それはコンセプトが明確だから。敢えてハイエンドヘッドホンに限定する所に出展者側の並々ならぬ意気込みを感じる。なお本当に内容がついてきているかは参加した人達の感想を拝見して見極めたい。
そしてショウを有料化して言い訳が出来ない状況に自らを追い込み、各出展者が本気で「夢」を提案する。ショウの出展に関わる諸々の費用が入場料で賄えればやれる事も多くなるだろうしモチベーションも上がる。
有料化すれば意図的に来場者層をコントロール出来るのも利点だ。若者優先で10代以下はタダ、20代は1000円、30代は3000円、40代は5000円、50代は7000円、60代以上は10000円とすれば現在の目も覆いたくなる様な入場者の年齢バランスは少なからず是正されるはずだ。
試聴でのS席確定かつ優先入場可能なファストパスを作るのも面白い。
来場者アンケートでブースのランキングをするのも良いのでは?
…とまあ与太話は尽きないのでこの辺りで切り上げよう。
業界が現状を追認しているのは「しゃあない」と思いつつ、それでもどこかで目を覚ましてドラスティックな変化にチャレンジしてくれる事を夢見て今回の記事を締めたいと思う。
コメント
コメント一覧 (4件)
私奴がオーディオショウでやってほしいと思っているのが、1室だけでいいので半月とか長期で借りて、ガチンコでセッティングした部屋を用意してほしいというものです。
オーディオに関心を持ち始めても、ガチンコでセッティングされたオーディオがどういう音になるのか体感する機会が中々ないからです。
そしてセッティングの様子をYoutubeでライブ配信して、その後にドキュメンタリー映像を作るのです。
叶うことならそれを『プロフェッショナル仕事の流儀』でやってほしいですね。
コメントありがとうございます。返信が大変遅くなり申し訳ございません。
時間を取ってのガチンコセッティングですか!それは面白そうですね。
でも各メーカーや代理店の使いこなしも含めた実力が可視化され過ぎるので嫌がられそうですw
という冗談は置いておくと、まさに私がオーディオショウやショップ店頭での試聴でいつも不足を感じる所で大変共感いたしました。
ショウやショップはポテンシャル確認の場、と現状ではなっていますが、それではポテンシャルを感知して、それを育てるとどこまで行けるのかイメージ出来る経験豊富な人たちにしかアピールできません。
それではエントリーからのステップアップや増してやこの趣味に興味のない人を振り向かせることは難しいと思います。
普段からは難しでしょうから、年に一度だけでも言い訳をしないガチセッティングで自分の所の商材の魅力を存分にアピール仕切る場を設けても良いと思います。
ご返信ありがとうございます
ガチセッティング部屋について共感していただき光栄です
各メーカー、代理店ごとの部屋とは別に、機材貸出の協力を募ってガチセッティングした部屋を1室、というのが現実的でしょうか。
OTOTENのセミナーやリクエストイベントをやってる部屋に対しての機材貸出の前例がありますし、条件が揃えばできそうではあるのですよね
それならば多分やろうと思って本気で手配すればやれる案だと思います。
あとは誰がそれをやるのかが問題です。
本来であればこういう時に新進気鋭の若手評論家が未来のために一肌脱いでやって欲しいのですが・・・
それよりもユーザー側のガチ勢が有志で集まってやる方が可能性ありそうなのがなんとも。