SMSL D400EX 所有レビュー

※今回のインプレはこの機種そのものの音質に関するものというよりは、このDACチップ(AK4191+AK4499EX)の持つポテンシャル的な範疇(このチップを使ってまともにDACを作ったらどうなりそうかというイメージ)に関するものになっています。この点ご注意の上お読みください。

※私はひたすら聴感上の経験(ここ20-30年のハイエンドDACやプレイヤーの7-8割は聞いているかと)をもとにこの記事を書いています。測定値に基づくものではないのでこの点ご理解いただきお読みください。

目次

まえがき

前々からこのチップ(AK4191+AK4499EX)に可能性を感じていたため、その初搭載機種ということで自分のシステムに試験的に導入してみた。
現時点での使用期間は約1ヶ月。ほぼ常に通電してじっくり聞き込んだ。
拙宅だけでなく他のハイエンドシステムにも持ち込んで試聴させていただいた
私の他に何人かに聞いていただいてその感想を伺い、大きくは私と同じ感想であることを確認した

聴取システム

かなり追い込んだ自作PC→本機→Bespoke audio passive pre →Boulder 1060→Marten Coltrane 3
比較対象としてPlayback Designs MPD-8も併用した。
また、電源環境、アース、機器の設置環境、セッティング、ケーブル類はかなり追い込んでいます。

まとめ

DACチップ(AK4191+AK4499EX)のポテンシャルに関して

素性がすこぶる良い。ポテンシャル的に嫌な感覚を覚える所がとても少ない。
デルタシグマ型のDACチップとしてはブレイクスルーを感じるチップ
特に質感と音場の前後感のレイヤー構築にブレイクスルーを感じる
総合的な穴のなさはかなりのレベル。音質を司るどの項目も軒並み高水準。
この製品のプアさが足を引っ張り、作り込めば最終的にどの地点まで行けそうなのかはまだ見えなかった。

この製品(SMSL D400EX)に関して

上記の様にDACチップのポテンシャルは感じるものの、この製品としては作りがプアがゆえの欠点が少なからずある
従って従来のハイエンド製品的にはこれが出たからと言って無風。比較に値するレベルには達していない。
まず高域のノイズ感が無視できないほど多い。これにより質感や音色等の様々な項目に悪影響を出している。
次に厚みや量感が乏しい。ノイズの影響もありスカスカ・ペラペラに感じる所がある。
更に情報量の捌きは優秀だがその連続性に乏しい。ハイエンドDACと比較すると櫛状に歯抜けになっている感覚がある。

項目別音質

質感

まずはここが1番のブレイクスルー。しっとりしつつ表面の複雑性も見える。これまでのデルタシグマ型は表面がツルっとしていて一様で複雑性に欠ける傾向にあった。例えば弦の擦った系の音の再現性などはイマイチだった。それがこのdacチップでは解消されている。表面のうぶ毛の様な微細な凹凸がスポイルされず出てきてくれる。倍音の出方も倍音の出る階調がより細かくより豊富に感じる。
それでいながら従来のakチップ的な色乗りの良さも保持しており、なかなかのポテンシャルを感じる。
正直言ってMPD-8よりポテンシャル的に優れている物を感じる。

音場

音場の構築の仕方にもブレイクスルーを感じる。これまでのデルタシグマ型では音場の奥へのレイヤーの構築が曖昧でうまく奥方向にがっちりとした階層が作られなかった。対するマルチビットではこの奥方向のレイヤーがズラッと揺らぎなく構築され、ここが長所の一つ。このDACチップではマルチビットの様な音場の構築感、奥方向のレイヤーの揺るぎなさを感じる
ここは正直言ってMPD-8より既にこの製品で優れていると感じる。

情報量の捌き

ここも特筆すべき所。従来のAKやESSチップ採用DACと比較して非常に細かい音を塊としてデフォルメせずに細かいまま捌くことが出来る。質感とも連動していて、よりきめ細かな質感につながっている。この辺りこれまでは良くできたディスクリートDACとの差を感じたがかなり縮まった印象を持った。この機種ではどこまで伸びるのかが見えないので今後どこまで行けるのかちゃんと作られた機器で見てみたい。

音色の自在性、追随性

ここもかなり良くなった。従来のデルタシグマではどうしてもある帯域で音色が硬直化して一つの傾向に流れたりすることがあったが、このチップではそれが解消されている様に感じる。良くできたマルチビット系に近いものに感じる。
ここも正直言ってMPD-8よりポテンシャル的に優れている物を感じる。

音色傾向

ニュートラル基調だが高域のノイズの影響でやや明るく感じることもある。

帯域バランス

フラット基調だが高域のノイズの影響でやや高域勝ちに感じることもある。

レンジ

必要十分。高低共に不足は感じない。

低域の駆動力感

低域の駆動力感、言い換えると低域の芯の強さ、グリップ力はなかなかのもの。チープとはいえスイッチング電源の強みを感じる。厚みや量感は別にして、ここに関してはオーディオ機器として一定の水準に達している。実はハイエンドDACとしてはこの項目がやや弱いMPD-8よりも勝る。

その他

機器自体のポテンシャルの上限値は低い。電源を始めとした作りの安さが出ている。
エージングに関しても初期の硬さが取れてスムーズになる程度で、ハイエンドDACの様にエージングてガンガン各項目の上限値が上がることはない。
寝起きは良い。30分も経たずにほぼフル性能が発揮される。

使いこなし

フィルターとサウンドカラーは色々弄ったがデフォルトが一番総合的に真っ当
ただ、デフォルトでは多分高域のノイズに引っ張られて聴感上若干明るい方向にシフトするので音色最重視ならフィルターは2番の方が良い。

ボリュームは可変から固定にするとよりフォーカスが定まり滲みが無くなりSN上がって音場の前後感も上がる。

試しに中村製作所のアイソレーショントランスに接続してみたが、細かい音が出なくなり音数がかなり減ってこの機種の良さが無くなる。
別系統のMPD-8で聞いた時のd400ex由来のノイズ感はほぼ無くなるのだが、デメリットがメリットを上回る。

あとがき

この機器はいわば線引きの様なもの。ノイズは気になるものの、音楽を聞くのに必要な性能は総合的に備えている。「良い音で音楽を聞きたい」だけならこれか、ノイズが気になるならこのチップを使ったアナログ電源採用のもの(多分gustard a26が該当)で十二分に目的は達成される。そんな機器が10万そこそこで買える時代が到来しつつある現状にはとても良い世の中になったものだと心から思う。

ここから先に行くのかどうかは趣味としてオーディオに情熱をかけるかどうか。より多くの感動を得たいのならば、ここからハイエンドに続く道がある。その世界は仮に性能グラフがあるとすると伸びは鈍くなるが実はその領域に入ると反応が大きくなって小さな違いが大きく感じる世界になり、やりがいは大きい。入ってみなければ分からない世界

最後に、繰り返しになるが、この機器は良い音で音楽を楽しむのであれば必要十分だが、設計や物量や品質にコストをかけた機器との差もまた厳然として存在する
DACチップのブレークスルーを歓迎しつつ、それだけでは得られない領域がある事も冷静に認識することもまた重要だと感じる。

このチップを積んだ中華製品の過大評価が過剰に蔓延してしまった時、オーディオというものの価値観の単純化とハイエンドか中華かという二極化が更に進んでしまう怖さを感じる…

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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