はじめに
2023年春のヘッドホン祭りは元々諦めていたが、急遽参戦出来ることになったので行ってきた。感謝。
昨年から始めたヘッドホン界探索の旅も最終盤に差し掛かっているが、今回その食べ残しをクリアすることが出来た。
同時にヘッドホン界のメーカー、ユーザーの空気感も肌で感じることが出来て自分の中では現時点でのヘッドホン界というものを色々と把握し切ることが出来た様に感じもう探索はいいかなという所まで来た。最後にその辺りについても少し記載したい。
MSB Premier Digital Director
今回の一番の収穫はコレ。
結論から言うとDigital Directorを入れると、これまでのデジタル再生からは別のステージに進んだ音になると感じた。
一番の特徴は立ち上がりが異常に速く感じる。もはや「速い」という表現のカテゴリすら超えた速さで速いと感じないほど。
DDが入るとあまりに衒いなく音が「起こる」ため唖然とするほど自然。「自然」という言葉はオーディオでは主に質感を指して使われるが、こういう時間軸的な音の成り立ち面での自然さを得られる機器やアイテムは他に無い。
良いクロックを入れた時と大きなカテゴリでは同じ感覚だが、細かく見るとクロックともまた効果は違う。言うならばPCオーディオでレイテンシーが下がった感じが1番近い。具体的にはOptane P5800を入れた時の感覚が近く、それを何倍も凄くしたような感じ。
アナログの音の密度感や連続性ともまた違った感覚で、立ち上がりという点ではアナログ再生も凌駕するレベルに達している様にさえ感じる。もちろんアナログにはピンキリあるので主語が大き過ぎるとは思うが、それでもそれだけのインパクトがあると言いたい。
それにしてもDAC分野でのMSBの一人旅状態はいつまで続くのか。私は日本に輸入されている主要なDACはほぼ聴き尽くしたが、機械仕掛けの音を自然界の音の方向に近づけるという正統派な方向性に於いてはMSBの上位(Reference, Select)は他メーカーの追随を許さない。今回のDDでその差は更に広がってもはや別次元に屹立している様に感じる。
某CSなどの古豪は、味変や音の立ち上がり・立ち下がりの時間コントロールで音を作るという横道に逸れた方向性から早く戻って来て対抗馬にまで並んで欲しい。突出したメーカーの一人旅は業界にとって碌なことにならないのが常だから。
OJI Special
個人的ヘッドホン界の食べ残しその1
ずっと聞きたかったがなかなか聞ける機会が無かったメーカーその1。ヘッドホン祭位でしか聞けないはぐれメタル
前段こそPCだが、DAC, Clock, HPAと全揃いのフルスペックバージョンを聞かせていただいた。
結論から言うと、非常によく頑張っているが色々と限界を感じる音だった。各項目で大きな違和感はさほどないが心ときめく所も無い。
例えるならば、10年前あたりの技術とセンスと認知をそのままにやれる事を実直に積み上げた感じ。以前取り上げたSMSL d400exとはまさに好対照と言って良い。
頑張っているのだか、どうしても出音からベースになる技術のキャパシティの小ささを感じてしまう。技術的な不完全性の高いものをいくら熟成させて磨いてもその不完全な箇所は不完全なまま、そんな音に聞こえる。
抽象的な話から入ってしまったが、具体的な音の印象を書く。
音像はスリムで剛性が高くやや硬め。
芯が強めに出て周辺や響きはやや出ない方向。
音色はお世辞にも良いとは言えずパレットの色数が少ない感じ。自在性も乏しい方向。
確かにクロックが良い時の様な精確性が高めな感じがするにはするが、本当に良いクロックが効いている時のような質感方面への柔らかさやしなやかさが出る所までは到達していない。多分クロックそのものではなく実装の技術的な所の問題に感じる。
音場・定位は初見の音源だったのではっきり原因がシステムだとは言えないが、ちょっと違和感があり、やや上方に浮いた感じの音場の形成と定位の出し方。
自慢の駆動力は確かに有るがムンド系の駆動力の出し方でガッチリ振動板をグリップする自在感はそこまで感じない。
首を捻るのが、自信満々なメーカーの音に対する姿勢とは裏腹に未だにBeyerdynamic T1 2ndをリファレンスにしていること。
T1 2ndは確かにその時代では良いヘッドホンだが、今のトップクラスのヘッドホンのレベルからすると色々と性能的に厳しい所がある。ということを認識すらしていなさそうな所に問題の根深さを感じる。
なぜT1なのか尋ねてみると600Ωで鳴らしにくいからとのこと。いや、オーディオは駆動力だけじゃぁないんですよ?自社製品がアンプだけなら百歩譲ってまだ許せる(許せない)が、DACまで製作しているメーカーがその視野狭窄っぷりでどうするのだろう。
これはヘッドホン界全体にも言えることなので後でも書くが、色々と認識が甘い。仮にも100万を超えるプライスタグを掲げるメーカーの姿勢ではない。言い方を変えるとユーザーを舐めすぎ。
ちゃんと他社の同価格帯以上のヘッドホンアンプやDACを聴き込んでますか?昨年あたりに出た出来の良いヘッドホン群はちゃんと聞いていますか?上流はPCやこだわりのなさそうなCDプレイヤーですがそれで十分だと思ってませんよね?etc 色々と言いたくなってしまう。
とにかく頑張りは凄いと思うのでもっと勉強して欲しい。それに尽きるメーカーに感じた。
マス工房 MASS-Kobo model465
個人的ヘッドホン界の食べ残しその2
ずっと聞きたかったがなかなか聞ける機会が無かったメーカーその2。自社イベントかヘッドホン祭位でしか聞けないメタルスライム
こちらも首を捻るのが上流がいまだにArcamということ。音を聞いたら確かにいわゆる「音楽性のある」方向性のプレイヤーだが本当にそれで良いと思ってるの?と問いたくなってしまう。
用意しているヘッドホンはutopia無印、susvaraあたり一線級なのでここは素晴らしい姿勢だが、尚更上流がARCAMである問題点が見えるはず。もしそれでもこれで良いと思っているのなら、ちょっと見えてない所が多いんじゃないの?と言いたくなる。
前置きが長くなったが音質を。
この機器の白眉は音像の実在感と抜群の駆動力。駆動力ならMSB premierとタメを張るレベル。しっかりグリップして自在にヘッドホンを鳴らす。音像の太さも相まってグイグイ音楽をドライブするので単純に音楽が楽しい。細えこたぁどうでも良いんだよ、音楽を聞け!というスタンス。
ただ、それはARCAMと合わせている時のこと。ARCAMでは細かい所が色々と判断出来ずモヤモヤしたので、予め用意していたShanling H7を接続してこの機器の実際がよく分かった。
やはりマイクロダイナミクス関係の性能は乏しい。かなりアバウト。きちんと細部を出す上流と繋ぐとARCAMで隠れていた瑕疵が顕になってくる。
具体的には、音色が全体的に同じ方向に偏っている。音色の自在性が乏しいし何か変。
また、高域のある帯域がちょっと聞いたことのない硬さがあって違和感が強い。
癖が唐突な所で強く出て全体としての音調が安定しないのでぶっちゃけ製作時にARCAMとの組み合わせでしか試してないのでは疑惑さえ感じる。
音場空間も何か変で素直では無い。
音飛びも乏しい。
中低域以下はARCAMではなくとも結構良いままなので明確に製作者および製作環境のブラインド項目の存在を感じる。
とても気の良い方が主催なので心苦しいが、220万のプライスタグを掲げるならもっと色々な観点から自分の製品を見直して、他社製品も色々と勉強して欲しい。オジスペに引き続きなんとも歯痒い。
YAMAHA YH-5000SE
環境を変えつつこれで5度目の試聴。
もう自分の中でこの機種をしっかりと捉えれているが、ダメ押しでメーカー本家が用意した環境で聞くことにした。これが本来の音という認識で良いですよね?
この機種に関しては別に記事を準備しているので詳細は割愛。
本家の環境でもこれまでの印象は変わらなかったとだけ書いておく。
YAMAHA HA-L7A
実は今回の主目的はコレだった。
残念ながらギリギリセーフで試聴券はゲットしたものの割り当てられた試聴時間が夕方なので試聴は断念。
メーカーに事情を話してOKを貰ったので某タヌキの人へ試聴は託した。インプレはタヌキの人が挙げてくれるはず。
Sforzato
昨年から色々と物議を醸しているtaktinaを使っていたので試聴。YH-5000SEを使っていたのも興味深く誘い込まれた。
音質は比較的YH-5000SE感がしなかったので色々思う所はあるが特筆する所はなくまあ普通。
話を伺ったが、Taktinaはアプリはそれなりに完成しているものの、なんかまだまだA社と話がまとまる気配がなく、いつユーザーに届けられるのか見通しが立たないとのこと。
Hifiman Shangri-la jr.
少し前にjrは聞いていたが、今回は親。
→今回もjrでした。
基本的にはjrと全く同じ方向性。Hifimanの長所である透明で自在性の高い質感表現に特化している。マイクロダイナミクス特化型。反面ダイナミクス方面は苦手。ここまでキャラクターがはっきりしていると多頭飼いでは使いやすい。
今日の環境では記憶の中のjrとはさほど大差はない感じ。jrで感じた上流環境への追随性の微妙さが親ではどうなっているか?(何となくそれも大差無さそうではあるが)
Lotoo Mjolnir
なんとなく気になっていたので試聴。
うーん…普通。
悪くはないけどそんな光るものは感じなかった。
TAD ME1
今回のおまけ
新世代フルデジタルアンプというものでドライブされていた。そこについては何とも特別なものは感じなかったのでここではスピーカーについて。
よく考えるとちゃんとME1を聴くのは初めて。
なかなかまとまりの良いスピーカー。多くの項目で合格点を取れて多分使いやすいだろうと感じる。
ただ、よく出来ているとはいえ、このスピーカーもTADの眷属の傾向からは逃れられないと感じた。
表現が重い方向に偏り、音色も暗め。
ぶっちゃけ高域が伸びないことの弊害をいつもTADに感じる。アコースティック楽器の音の再現性にやや苦しい所がある。
私から見たヘッドホン界の空気感
色々書こうと思っていたが長くなってしまったので別記事でまとめようと思う。ヘッドホンの総括的なものになるかもしれない。
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