YAMAHA YH-5000SE 無限試聴レビュー

目次

はじめに

2022年12月の発売前から何かと話題のYAMAHA YH-5000SE。私も発売前から期待しており、巷の評価も概ね良いことから一時期無試聴で突撃しようとさえ考えていた時もあったほど。

結果的に突撃は自重して試聴したのだが…
今回はいつもと趣向を変えて時系列順に感想メモを書いていく形にする。

長いので読むのが面倒な方は「音質まとめ」だけ読めば把握は出来るのでそちらからどうぞ。

2023.1.18 with MSB Discrete DAC plus + Premier HPA

音質以外

装着感は悪くない。
ただヘッドバンドが緩くずれやすい。

ボリュームはMSB Discrete DACで70-80あたり。特に音量が取りにくい機種ではなく普通。

音源別雑感

・上原ひろみ
ドライ
低域が締まってる
ピアノの音ではない

・David Sanborn
アンプが温まるに連れて違和感。
ヘッドホンの出せるテクスチャがアンプの能力について行ってない
サックスの音じゃない。ひたすらドライ

・エルトンジョン

・fripside
色々ある音のうち変な所が聞こえてくる。拾いやすい音のポイントがおかしい
音がガチャガチャしてる
音がギザギザしてる

・グレイスマーヤ
やはり変な音を拾っている。高域のブラシ?
マーヤさんの声も変

・ハイティンク マーラー
音が一様・連続でない。ひたすら細かい音の集合体の様な感じ。じゃわじゃわしてる
どの楽器も妥当性が低い
特に金管が酷い

・薔薇の騎士
音が違う
破綻している
色々な音がそれぞれまとまり無く野放図に鳴っている感じ
男声、女声とも酷い。特に男声バリトン
音楽が連続して流れずぶつ切りにされている感じ

・ハービーハンコック
木管の響きよりも擦れた様な音の方が目立つ。とても木管とは思えない

・izume
音がおかしい
聞いていて頭が痛くなりそう
ひたすら耳に辛い系統の音ばかり優先して拾う

・ボナマッサ
ドラムの響きがおかしい
芯があってそこから響きのグラデーションの中間が抜けてて細かい響きが急にあるみたいな感じ
ナニコレ?ギターなの?
ボナマッサこんな声?

・ツィメルマン
ピアノがおかしすぎる
高次倍音が何故か1番拾える
頭が痛い
ツィメルマンが聞いたら怒るよ?

・鳥の歌
音の序列がおかしい
音の飛び方がおかしい
この音源は元がアレなのでまだイメージとの落差はマシ
それでも声がじゃわじゃわ

・クレンペラー
音がじゃわじゃわ
ノイズが入ってるのでは?
古い録音の悪い所ばかり出る

・クレスパン
やはり古い録音がガサガサする

・avid
アンプがかなり本領出してきた
平面的
エフェクトの音の奥域感がゼロ
拾う音と拾いにくい音が極端
やはり全体の楽曲としての統一感、流れがない。それぞれがぶった斬られて好きなように音が鳴っている感じ
それにしてもこのエフェクトの音の質感はヤバすぎる。音を司る芯と細かい響きとの中間の音が壊滅している

・ズスケ
厳しい音ばかり拾う
チェロが別のナニカに
ヴァイオリンはキーキー

・ディースカウ
やべー別人だ
ひたすらドライ
声の成分のうち部分的にしか拾えてない
深みゼロ

唐突にヨルマのエージングの途中の時の酷い音を思い出した。部分的にしか音の成分が出ていないあんな感じ

・Zedd
今までで1番まとも
とはいえ音が色々とおかしい気配を消し切れない
音の締まりは良い様でバシッとしまってはいない。何かの成分が足らない。止まるというより急に無になる感じ
押し引きの追随性はなかなか良い

・かめりあ insane
やはりまだしも合う
色々聞こえるが、音を拾いやすいかと言うとそうではない。解像度が高そうで解像度が高い場合の聞こえ方とは違うナニカ別の鳴り方をしている
やはり目立って拾いやすい音が明確にある。それが気になって他の音を聞きに行くのを邪魔する

あとがき

でもさすがになぁ…ここまで何も良い所が拾えなかったのはオーディオ機器の試聴で初めてかも

いつも微妙でも良いポイントや合いそうなスタイルや音源を考えながら聞いているが、今日はなにも浮かばなかった

何も響かず試聴がただ苦痛な時間だった

やはり「継続性のないメーカーで若手が作ったものという時点でお察し」という事前の個人的な予想は正しい見方だったとしか言えない。

2日後 先日の試聴を振り返って

MSBに繋いだ音は真面目に故障を疑う音
なぜか巷で指摘されないけど
まともな環境で聞いていないのでは?

ここまでダメだとエージング不足を疑うが、音から考えて明らかにエージング不足の音とは違う所でダメ

なんか聞いているとむしろエージングをかければかけるほど音がヤバくなる気配感じる

2023.1.26 with dCS Lina system

この前のMSBよりマシ
でも超高域がサチってる感じの音が乗る
超高域ノイズをモロに拾ってる?

Linaの設定を色々と変更しながら試した結果、このヘッドホンの理解がかなり進んだ

結論から言うとこのヘッドホンは超高域ノイズをモロに拾う。他のヘッドホンとはかけ離れてその影響は甚大

ぶっちゃけ製品として出してはいけないレベルで超高域ノイズを拾う。ここまで行くと個性とは言えず、ただの瑕疵でしかない。

早く対策版をリリースするべき

なので同じ環境でも音源によって大きく印象は変わるし、システムによってもまた大きく印象は変わる。

巷では使いこなしが難しいヘッドホンとかいう評価も散見されるが、これは使いこなしとかそういう問題じゃねーんだよ

仮に超高域ノイズ問題が解決された場合の感想

今後対策が為されて、仮に超高域ノイズ問題が解決された場合をイメージして感想を書いてみる

ものすごく中庸なヘッドホン
固有音を本当に持たない
鮮度が高い
やや倍音が少なくやや響きの持続時間が短くドライ目だが個性といえばその程度
ただ、常に質感が出るのを阻害する膜みたいなものがあってそれが堰き止めている。聞いていて情感的なものがかなり受け取りにくい。そしてその膜がなんか安定しない
表現がやや硬い。硬直しがち。突っ張りがち。自在性、柔軟性が無い
音が近く独特な鮮度感・ダイレクト感を感じ、脚色も固有の音色・音触も全く無いことから
細部の描写力(解像度)もノイズ問題が出ない場合は高い

音源別雑感

・aurora
うーん…
でもこの前よりマシ

・ツィメルマン
これは辛い
Dsdf3でも貫通してくる
Dxdf2なら死

・鳥の歌
結構辛い

・the queen’s delight 7
フルートの音の息

超高域ノイズに加えて特定の帯域が苦手な感じがします

・mamemori tachyon k
ヘッドホンが聴かせてくる中心の帯域が変わる
ノイズの乗る超高域の帯域が広いほど超高域の帯域が前面に押し出されてくる

・stand by you
中域は反応まずまず。

・avid
かなり下はやはり緩い。描写も曖昧

・ハゲ
やはり低域は緩く情報も曖昧

・ズスケ
音楽に豊かさがない
音楽的に薄くなる

あとがき

逆にこの異様な無機質感は他にないものなので、ノイズ問題さえ克服されればある意味ではなかなか面白いかもしれない

この機器を開発するにあたり何か狙いがあるとすれば、明らかに狙ってるのは「無色透明」

「無色透明」というお題があったとして、その答えの中ではなかなか面白いと思う

あくまで「無色透明」であって「ニュートラル」とか「自然」ではない

で、そのお題の解釈が若い。若いが故に面白いものも出ている感じ

ユニークで面白い要素の引き方をしている

従って音源の新鮮な聞こえ方がたまには欲しいという好事家的な用途ならばアリかもしれない。

でもこれしか使わないorこれがメインは厳しい。多分使っていると感覚が狂っていく怖さがある。

2023.3.12 with RME ADI-2 DAC FS

この環境ではこのヘッドホンは全く駆動しきれてない。能力を出せていない。
曖昧でモヤっとして細部が描写しきれていない。前段から解像度的なものを取り出そうとして音を引いている

単純な話で、開発環境や設定レベルがプアすぎる。だから色々と見えてないネガがまともな環境にすると見えてくる。だから評価が安定しない

それはノイズでもあり、駆動に関するものもあり、細部の描写力の話でもあり、全てに関わる点で想定が甘い

これまでの試聴で製作者の聞き耳レベルが低いのかと思っていたが、今回で製作環境のレベルも低かったことが透けて見える

そら安定しませんわ

このヘッドホンをして「凄い機器だから環境を選ぶのだ」と有り難がったらヘッドホン民は舐められますよ

凄い機器はこれとは環境に対する挙動が逆になるもの。環境が良くなるほどそれに追随して更に情報量や細部の描写等に磨きがかかる。特に上流のクオリティへの追随性がポイント

聞くたびにどこかのタイミングで表ではっきりと断罪すべきだと思ってしまう罪なヘッドホン

フジヤで聞いた時より柔らかくこなれた感じがするが単純に駆動力始め環境の実力が足らないだけ

今までこの環境で駆動に関して疑問を呈するのを見たことがない事から、申し訳ないがヘッドホン民・イヤホン民が駆動に関する感覚が足らないのがよく分かった

50万もするのに20万足らずのAIFとmacbook(audio gate)でマッチングしてしまうヘッドホン…

2023.4.13 with Goldmund THA 2

前回1月末にこのショップの同じ個体を聞いた時よりエージングは進んでいる感じ。全体的に若干解れて、超高域の変な音も若干出にくくなっている気がする。でもエージングが完了してもこれらが無くなりそうな気配は感じない。

相変わらず変
音痴
音の成分が一様ではなく変に出ている。倍音?
音数が少なすぎる
音が整理されすぎて寂しい
低域がジークフリートモードでも出ない
高域に発震したようなモノが乗る
ピアノが音痴すぎる

MSBワクワクセットに変更

思ったよりまとも
音数が少ない
音像のコアの更に芯寄りの所が強く出る
高域に硬い帯域がある
低域の制動が弱い

IzmeのRaiseがめちゃくちゃ
冒頭の響きのところでブヨブヨ不安定に揺れる
低音域が大味
量感は出る時は出るけどなんか音源によりそれも不安定

いつ聞いても乾いていてみずみずしさが乏しい
音が飛ばない。粒立ちも出ない。ベッタリしてる

2023.4.29 with Yamaha system

ヘッドホン祭の会場で試聴させていただいた。

システムは富士通のノートPC(ソフトはfoobar)→YAMAHAのプレイヤーのDAC部→YAMAHAのプリメインアンプのヘッドホンアウトという構成。

途でデジタルはやめてYAMAHAのアナログプレイヤーからも聴かせていただいた。(グールドのゴルドベルグ)

印象はこれまでと変わらず
音質はドライで音が間引かれている感じで音数が少ない。

前述のADI-2ほどでは無いがシステムとしての情報量や駆動力はやや乏しく、ゆるりとこのヘッドホンを動かして問題はあまり顕にならない。(それでも聞く人が聞けばすぐに分かると思う)

たが超高域ノイズ問題はこの環境に於いても出る。具体的にはこの日用意されたピアノ音源において顕著だった。このヘッドホンはいつもピアノが厳しい。メーカーの人はこの音源をこのシステムで聞いて本当に違和感が無いのだろうか?煽りではなく普通にちょっと信じられないのだが。

期待していたアナログもぶっちゃけブラインドならアナログであることを疑ってしまう様な音で期待が外れた形に。アナログの圧倒的なアドバンテージである密度感と連続性をほとんど感じなかった。情報量もアナログにしては不思議なほど乏しい。これはヘッドホンの問題以前のアナログシステム側の問題に感じる。

今日YAMAHAというメーカーのシステム全体を聞いて、正直この価格帯のヘッドホンにいきなり挑戦するのは無謀だったのではないかと感じた。

音質まとめ

「はじめに」の項でも書いたが、いつもは結論から書いているところを今回は時系列順に色々な環境で試聴した感想をまずはそのまま記載することにした。

この項では全ての試聴を合わせた私の総合点なYAMAHA YH-5000SEのインプレッションをまとめる。内容は各時期のインプレと繰り返しになるがご容赦を。

端的に言うと、このヘッドホンは50万のプライスタグの価値は感じられないプロトタイプ的な位置付けという把握の仕方が妥当だと思う。作り手の認知や経験値、そして開発環境、覚悟、全てに於いて50万の高級機を作るには不足を感じる出来と言わざるを得ない。

このヘッドホンの総合的な特徴は、システム環境のレベルが上がるにつれて詰めきれていない厳しい所が露呈し色々と破綻すること。正直総合的な完成度はとても50万のプライスタグが付けられるヘッドホンではない。20万以下あたりのヘッドホンに合わせる様なシステムのレベルでようやくマッチングする。それ位の環境の方が上手く粗が隠れてそれなりに上手く聞こえる。実際巷の感想を見ても例えばADI-2等を合わせた時の方がポジティブな感想が多い。

1番の特徴として挙げたいのが超高域のノイズをモロに拾うこと。2,3曲ピアノの音源を聴くと誰でも分かるレベル。拾い易い音源と拾いにくい音源があり、拾い易い音源はノイズを拾う帯域が聴感上強調されてとても音楽鑑賞という話では無くなる。これも巷の評価が安定しない一つの要因。

音作りは引き算の音作り。
このヘッドホンが出せる情報量は結構間引かれている。よって情報量を多く出せるシステムほど間引きが目立って違和感が大きくなる。反対に元々それなりの情報量しか出せない、もしくはSNが低くノイズが間引いた隙間を上手く埋めてくれるシステムの場合はハマる場合もある。これも巷の評価が安定しない一つの要因。

細部の描写力も実はそんな高くない。上流の情報密度への追随性は割とあっさり頭打ちになる。ただ、前述の引き算の音作りにより音が間引かれているので聞き方によっては「解像度が高い」様に聞こえる。これは聞き手の側の聞く能力の問題が大きい。本当に情報量が出て情報密度も出ているシステムでそれらがきちんと出せるヘッドホンもしくはスピーカーをある程度聴き慣れればここは理解できる様になるはず。

情報の間引きと共に帯域ごとに情報が安定しない。これによって急に変な音になる楽器や打ち込み音が表れる。特に倍音領域でこれが出やすい。これもシステムがハイレベルになるほど顕著に現れる。

音色はドライ。特にシステムがハイレベルになるほど顕著になる。原因はあるべき音の成分が間引かれて不足しているためだと感じる。

固有の音色を持たず無色透明に感じる。が、これも音源に追随する自在性のある本当の意味での無色透明=つまりナチュラルということではなく、どんな楽器でも無色に脱色してしまう方向での無色透明。無機質とも言える。やはり音の成分が足らないのが原因に感じる。

トランジェント(押し引き)は一聴してそれなりに高いと感じがちだが、本当に高い時の聞こえ方とは異なる。音の起こりと引きの部分であるべき成分が不足しているからそう感じがちに思う。妙にブヨブヨする音源もある事から、実際はトランジェントはあまりよろしくないのだろうと感じる。

帯域は上は広いが下はそれなり。バランスは大きくは取れているが前述した様に急にない所が櫛状に歯抜けで出て来て違和感がある。また前述した様に上は広すぎる。というか拾ってはいけない所まで拾ってしまっている。

あとがき

今回は話題のヘッドホンだということ、ヘッドホンユーザーの期待を背負った国産ということ、最初の私の試聴時の印象が自分でもちょっと信じ難いほどすこぶる悪かったことから、すぐにインプレを表に出さず、かなり配慮して色々な環境で何度も何度も試聴し評価を重ねた。

エージング不足についても疑って個体を変えたり、時期を置いたりして注意深く見守った。

しかし結果として、足掛け3ヶ月で5回の試聴を経ても印象は最初とほぼ変わらなかった。

手前味噌だが、それなりの経験値がある人間は初期から機器の能力の把握は大きく外さない。短時間でもその機器の勘所を掴めるものだと思っている。これは私に限った話ではなくこれが出来る人を私は何人も知っている。

もちろん何度も試聴を重ねたり、所有して長期間試すことで、より評価の精度が上がり細部まで把握できる様になるが、把握の芯の部分は最初からほぼ一貫したものになる。

今回はこうして実験的な意味合いも加えてかなり配慮して時を経過させたため、この製品の話題の旬を過ぎてしまった感がある。

実際に先日4/29に各ショップに追加生産分の入荷があったが、ついに某店でも予約のみで完売とはならず今も在庫が継続して存在している。もはや今更インプレを投下しても、それを参考にしたい人間は3ヶ月前に比べて限られてしまっているだろう。

一体配慮とは何なのだろうか?ちょっと考えてしまった。

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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