SONY MDR-MV1 所有レビュー (360 Reality Audio, Dolby Atmosを考える)

今年の5月12日に発売し、話題をさらったSONYの新型モニターヘッドホンMDR-MV1を購入して約半年間使用した感想を記す。このヘッドホンはプロモーションにおいてイマーシブオーディオの製作への使用をかなり宣伝しており、今回購入したのもまさにその点の出来が普通のヘッドホンとどう違うのかを知りたかったから。イマーシブに対する適応性についても検証し360 Reality AudioやDolby Atmosについて少し思考してみた

注釈として、今さら言うまでもないが私は製作畑の人間ではなくいちオーディオ民であるため、そういった用途の観点で評価はしていない。リスニング用途での聞こえを主軸にいつも通り感じた事を記している。

目次

まとめ

一言で言えばイマーシブオーディオの音場再現専用ヘッドホン。イマーシブではない普通の2ch音源でも音場の立体感はヘッドホン全体でもトップクラス。(但しスピーカーで言うと奥に行くべき音の定位が変に回り込むこともあり、正確性は高くはない)音場の構築の仕方は自分を中心として球体を脳内で描く感じ。これは普通の2chスピーカーオーディオの奥に広がる音場定位とは違うが確かな説得力があり聞いていてとても面白い

音場以外のヘッドホンとしての各性能は凡庸以下価格なりか価格の水準より下の性能の項目が多い。正直実売5万前後というプライスタグに相応しい性能とは言えない。例えば同価格帯なら個人的にはAustrian Audio X60やX65の方がモニターベースの音調でかつ各項目に瑕疵が少なくおススメ出来る。

このヘッドホン、スタジオでのモニター用途を押し出しているだけあって大筋で大外しはしていない。音も良く見えるし音色の上乗せもしていない。一見良さそうに見えるのだが、よくよく聞き込んでみるとこのヘッドホンには大きな瑕疵が2点ある

1点目は引き算により解像度感を作っている点

このヘッドホンはちょっと聞いてみると一見(一聴)解像度が高い様に感じるが、そのカラクリは音を間引いて密度を櫛状に粗にすることで「解像度感」を上げているだけで本当に音を細やかに表現している訳ではない。従って例えばエントリーのDAPあたりで聴くと問題は見えず解像度感を上手く得ることが出来るが、システムレベルが上がると途端に馬脚を露し、音に連続性が無く音色や質感等に少なからぬ悪影響を及ぼしている

2点目かつ最大の瑕疵は低音。

悪い意味でなかなか聞けないレベルの低音の出来。まず量感が過大。最初はエージング不足かなとも思ったが、エージングしてもほぼ解消に向かわない。明らかにニュートラルな帯域バランスを逸脱しており、こんなので音楽製作されたらと思うとゾッとする。(多分賢明なプロの方はきちんと適材適所でこのヘッドホンの長所のみの確認で使われると思いますが)次に質感がゴム毬の様で音の芯がない。ドラムや太鼓系の音は失笑が出てしまうことも少なくなかった。

以上の様に、製作時に音を「置いていく」もしくはリスニング時に「音の配置を観る」(音取りをする)のには良いが、音の質を見て「作り込む」もしくはリスニング時に楽器やボーカルが「そうであるように感じる」のには全く向かない。

よって、このヘッドホンは多頭飼いのうちの1つとして強味が出る点のみを確認する用途で使用するのが適当だと感じる。このヘッドホンのみで全てを賄おうとすると厳しい。

2023.5.15 ファーストインプレッション

フジヤのMSBワクワクアトラクションセットで初めての試聴

正直微妙。巷の絶賛の嵐は一体・・・?

ガチで聴くと厳しい評価ばかりを羅列してしまいそう

色々と違和感が多すぎて表現が難しい。というかモチベーション的にちゃんと書くのがめんどくさい

ざっくり聞くと中高域はなかなか自然で良い

硬い刺さり気味になる帯域がある

低域はアバウト 

押し引きの追随性は価格なり

2023.6.1 イマーシブオーディオを聴く

イマーシブオーディオに興味が出たのでフジヤでSony NW-ZX707を使ってイマーシブオーディオ(360 Reality Audio, Dolby Atmos)を聞く

360 Reality Audioは相当シビア。意図している通り鳴っていない感が結構あって真価は分からず。残念だがこのシビアさでは流行るわけがない。多分完全に本領発揮はキャリブレーション前提。今日の環境では左右は動きやすいが前後が出にくい。上は少し。下は感じない。多分キャリブレーション無しだとここは個人の耳の形で変わりそう

音質はイマーシブでもそのまま。2chと同じMV1の音質が継続。むしろ妙な独特の音像の近接感があってMV1の残念な音質がそのままわからされてしまう・・・

イマーシブの音作りは「あーなんかわざとらしく音を移動させてるなー」というのが丸わかり。しかも楽曲本来の意図と関係ないただのオ●ニーの様なものも結構ある。例えばYOASOBIの夜にかけるのイマーシブは無理やり感がヤバい

とはいえ、エンジニアとしては楽しいだろうなと素人でも分かる。音を描くキャンパスがいきなり何倍にもなって次元も増えて・・・ウハウハやろな

今日一番確認したくてかつ体験後に安心したのは「音質という観点では今までの2chオーディオの概念がそのままイマーシブでも使える」ということ。定位を取る感覚も2chと同じ。完全別物だとこれまでの2chオーディオの経験値はリセットかと思っていたがそうでは無さそう。巷では「2chとは完全に別物だ~」的な騒ぎ方をしていたのでそこが気になっていたが、体験してそうではないことが確認出来た。

でも逆に言うとガッカリもした。キチガイみたいにやらなくても良い世界がイマーシブにはあっても良かった。というか、それこそがイノベーションと言えると思うのでちょっと肩透かし。

端的に言うと、従来の2chとイマーシブで変わった点は「音が定位する空間の自由度だけ」。しかも音質は2chからやや悪くなる方向にも思える。ここは本当のネイティブでイマーシブを製作すれば違うのかもしれないが・・・

イマーシブオーディオを考える

360 Reality Audioを考える

360 Reality Autioの普及を考えると、十数個スピーカーが必要なのは言うまでもなく家庭では現実的ではない。また、その点でハードルが低いヘッドホンにおいてはやはりキャリブレーションが鍵であり癌。まともなキャリブレーションをするハードルが費用面でもサービス面提供場所の数でも高すぎる。

しかもキャリブレーションが出来たとして、それが使える音楽サービスがほぼ日本では皆無に等しい。ここにきてmora qualitasが死んだのが痛い。このチグハグ感がいかにもSony。勿体ない。せめてSonyのDAPにしれっとデフォルトでTidalが入っていてキャリブレーション設定が入れれればまだワンチャンありそうだが当然そんなことはしないのがSony。

ローンチから既に2年でこの状況は無い。。。Dolby Atmosに対する優位性は南半球がある事とキャリブレーションがある事だと理解しているが、それを自ら死に体にするという素晴らしい采配。現状Sonyの1,2部門のオ●ニーでしかない

イマーシブを広く考える

エンジニア界隈を見ているとDolby Atmosが流行ってきている感じだが、果たしてユーザー側がそれを求めるのかというとまだまだな気がする。傍から冷めた目で見ていると、エンジニア達はatmosの初期ラインナップ拡充のための音楽レーベルの初期投資をいかに先行者として獲得するかを狙っているだけに見えてしまう。初期のバブルが終わったら当分放置されそうな予感がする。

やはり一般層での普及を考えるとスピーカーはあり得ずヘッドホンで行くしかない。普及を考えると現状は色々とおかしい図式。業界として真面目に考えられていない。今後革新的な技術がポンと出るまで塩漬けになる未来しか見えない。。。

そして購入

イマーシブの可能性の探求等気になるところもあるのでとりあえず購入することにした

2023.10.22 最終評価

ここらで最終評価を固めようということで自宅メインHPシステムでガチ試聴を行った。

質感

情報が櫛状に歯抜けになった

連続感が無くザラっとして質感は良くない

艶やかさ、滑らかさからはかなり遠い。ガサガサしている。女性ボーカルを楽しむとかはない

とにかく質感は悪い。下品でさえある。アコースティック楽器が電子音になったかのよう。ノイズで歪みが乗った時の音に似ているのを素で出してくる超技術

もともとのクオリティが低く粗い音源はまだ酷さを感じない

音色

音色が全て微妙に変

色彩感が脱色されている。モノトーンに寄る

こればっか聞いていると感覚がおかしくなりそう

音の成り立ち

全てが点の集合体、しかも点と点の間に隙間がある様な描写をする

間に隙間のある点描写がゆえの不思議な高解像度感、妙に音がよく見える感はある

音の粒の粒度が大きく硬直していてしなやかさがない

音が微妙に二重になった感じになる。音の芯がしっかり見えない

ダイレクト感、鮮度感が乏しい。全体に常にモヤがかかったような晴れない感じがある

音の密度がない。スポンジのようなスカスカ感。ピアノとか悲惨

密度感・連続感が無いので全てがリアリティに欠ける

押し引きについても二重の感覚が足を引っ張る。気持ちよく立ち上がらないし後は尾を引く

低域

低域は酷い。このヘッドホンで個人的に1番の欠点。過大な量感とゴム毬ような質感。音の芯を感じないのは低域において顕著。全てが音の周辺的な音の振る舞いをする。例えるならイケてないバスレフのスピーカー的。特にEDMとかコレじゃない感がすごい。

この低域でプロ用を謳ってはダメでしょ。色々な項目で大きくニュートラルを逸脱している。こんなもんで作られた音源は酷いことになる。

低域の階調感はやや悪い。残響感や二重感がありすっきりとしない

アタック・響き

残響成分と直接音成分の描き分けが変。やたら残響成分が残り持続する。ともすれば二重になった感すらある。大太鼓とか悲惨。アタック感のかけらもなく皮の張りも感じない。ただ残響が目立つ

帯域バランス・レンジ

帯域バランスは低域が過大。ピラミッドバランスという安定感を得られる好意的な領域を超過していてバランスが悪いとしか言えないレベル。

レンジは高低ともにそれなり。

高調波は乏しく金属音は苦手

質量感

質量感はない。重みが全く出ない。低域は量感で誤魔化しているだけ。

音場・定位

空間表現は独特の良さ自分を中心とした球状に音が配置されるイメージがある

ただ、奥域の遠目の音は頭の上の方へ定位されてそのあたりの2chによる音場感のある音源の精確性は乏しい

距離感は近め

定位は普通。特に可もなく不可もなく

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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