Austrian Audio The Composer 試聴レビュー

※この記事は2024.1.6に一部追記した所があります。
それ以前に読んでいただいた方は追記分である「まとめ」と「2024.1.5 セカンドインプレッション」をご覧ください。

今回は2023年12月15日に発売され、今(2023年12月末)最も話題のAustrian Audio The Composerを試聴させていただいたのでその感想を記す。AKGの流れを汲むAustrian Audioが満を持して出すフラグシップヘッドホンであり、価格も実売約40万円とハイエンドヘッドホンの入口に位置する期待の新製品だ。巷では好意的な評価が多く絶賛の声も聴かれる中で実際どうなのかを確かめてみた。

目次

まとめ

後述の通り、音質が安定しない感じがするので現時点では評価は保留
年明けに再度試聴させていただき自分の中での認識を固めたい。

※2024,1,6追記
昨日改めて試聴させていただき、前回とは大きく異なりポジティブな印象を受けた
しかし、前回と今回との大きな違いをはじめ、音質が不安定なこともあり、最終の結論はまた時間を空けて試聴させていただいた時に持ち越したい。

2023.12.25 ファーストインプレッション

フジヤさんで初試聴。システムはいつものMSBワクワクセット試聴の比較のお供にDan Clark Audio (DCA) Stealthもお借りした。

また、この日は珍しくMSBワクワクセットがチンチンに暖まっていたのでDACとアンプの暖気を待つ必要がなくとてもスムーズに試聴出来た。とてもありがたい。

試聴環境

Silent Angel Z1(?)

MSB Discrete DAC plus

MSB Premier Headphone Amplifier
純正バランスケーブルで接続
Austrian Audio The Composer or DCA Stealth

音質以外

モッチリとしたパッドの材質があまり好きではないので付け心地は個人的にそれなり
重量は軽い
YAMAHAより保持力が高く装着位置がズレにくい。(YAMAHAは軽いがズレやすい)ここは褒められる
ボリュームはそこそこ取りやすい。MSB Discrete DACの電子ボリュームの数値で60-70あたり。ステルスとの差は20くらい

音質

試聴初期の印象

一聴して普通にまともな範疇
でも噂の「新しい音の切り口」は感じられない。むしろとても普通
一定以上見えない感覚。上限は高くない
ダイレクト感がとても乏しい
超微細領域はほぼ見えない
いわゆるモニターという感じではない

質量感

質量感が結構乏しい。全てが表現が軽い
でものっぺりとしているので不足はあまり感じにくい

表現力

淡々としている。起伏や緩急を感じ取りにくい
音楽の上っ面だけを撫でる様な感じ

音場・定位

音は近くも遠くもなく中庸
若干違和感はあるがほぼ泣き別れ感はでない
定位は良くない。なんとなくフワッとそこにある感じ。音像の収束から遠いし場の空気感も感じにくい。気配も出ない

試聴中期~後期(15分経過あたり以降)の感想

このヘッドホンで1番の欠点は「見えない」こと。見えなさ過ぎてディティールが死んでいる。マイクロダイナミクスがうんたらというレベルではない。一定以上のレベルのオーディオであるべきものが無い。

不感症の海に投げ捨てられた様な感じ。感じ取れる情報が異常に少ない

音源別雑感

コリンメイ

ピアノのピアノたるものが半分くらい出ていない。電子ピアノとかでもなくナニカ
ボーカルも普通に歌っているだけで細やかな表現とか全部消えてる

Tak

反応は軽い
押し引きも悪くない
だがのっぺりとしている

ブレハッチ

音の芯辺りだけで響きや倍音は発生するがすぐにそこから先が消え失せる感じ
とにかくピアノがピアノじゃないに尽きる

Good hervest

ギターがギターじゃない
響き方がおかしい
こもり感
風呂の様な残響
見えない

Lia 鳥の歌

冒頭のどこまでも広がる空にエフェクト音が高く舞い登っていく感じが全然出ない
透明感が全然ない
それなりに鳴ってはいる

ボナマッサ

バスドラのダイレクト感が全然ない見えない
ドラムの複雑性が全て無の彼方へ
ボナマッサのギターもこもってキレが悪い
普通にそれなりには鳴っている感
一聴して破綻は感じない所がこのヘッドホンのヤバい所

Lose control

音飛びが悪い意味でヤバいw
変な笑いが出る
全然音の粒立ちや音飛びが表現出来ていない

ハイティンク マーラー1

オケが全然見えない。
ハーモニーがあるから良いとかじゃあ無いんだよ
とにかく見えない
この見えなさで40万はヤバすぎる

なんとなくは普通にやっている様でちゃんと耳を向けると全ての楽器がその音を半分くらいしか表現されていない。でも決定的な破綻は感じられない。この罠感がヤバい。これをリファレンスとしてこんなもんだと思ってしばらく聴いていたら感覚が破壊されそう。

ズスケ

なんだこれはたまげたなぁ
1st,2ndヴァイオリンだけでなくヴィオラまでも聞き分けが非常につきにくい
チェロとかなんなんこれ?渋みがや銅鳴りが全然表現出来ていない。
これは20万でも高いかも

NieA 美しき

全てがなんとなくそれなりに鳴っている
コーラスが何人居るか毛ほどもわからない
全部がそれっぽくて実は全然それっぽくない

寺井尚子 フーガの技法

ヴァイオリンの音色が寺井尚子のそれからかけ離れている
泣けるほどヴァイオリンの値段が安くなってる
ピアノは倍音もクソもない
キレや緩急、情感が全然伝わらない
ダイレクト感が乏しい

Izme Raise

響きすぎ
肥大している
粒立ちがない
音があまりに収束しない
一応それなりのダイナミクスはある
ただのっぺりしていてダイレクト感が無いので本当のキレやEDM的な快感は全くない

アーメリング

アーメリングの歌唱のテクニックが半分も分からない
細やかな歌い回しの変化が全然感じられない
10-20万クラスでももっと見えるヘッドホンは何個もあると思う

DCA Stealthと比較でまたThe Composerを聴き始めて

比較のためにStealthを少し聞いてからまたThe Composerに帰ってくると、また試聴初期の様に「そこそこ悪くないのでは?」となった。不思議。
個人的にこういう印象の揺れ方をした経験がないのでここは立ち止まるべき
もしかして連続使用で変な音にどんどんなっていくとか・・・あるのかな?
ちょっとそこが引っかかるので今日は結論は保留これは何度か試聴してから最終評価にしないと
これって不具合ではないのか?それとも仕様?
ひょっとしてしばらく音楽を聴いて振動版を振動させたら微細領域の感度がバカになるのでは?
これは酒を飲んだ時の音のイメージ。鳴らせば鳴らすほどどんどん感度が落ちるとか。酒飲みコンポーザーさんなのか

2024.1.5 セカンドインプレッション (※2024.1.6追記)

前回の試聴で音質が安定だと感じたので再度時間を置いて試聴させていただいた。

今回はまずアンバランス接続でどうなるのかを検証し、それから前回と同じバランス接続も試した。

試聴環境

Silent Angel Z1(?)

MSB Discrete DAC plus

MSB Premier Headphone Amplifier
純正アンバランスケーブル(+3.5mm→6.3mm変換プラグ) or バランスケーブル
Austrian Audio The Composer

余談だが、このヘッドホン結構カッコよい外観なのに内部に書いてあるLとRドーンがあまりにもダサい
これは何とかならなかったのか・・・

アンバランス接続を試す

(K)NoW_NAME: Alstroemeria_pink

バランスはやはり悪くない
低域の音圧が足らない
低域が若干フワフワする
音が間引かれている感じはするがまあ許容範囲
ボーカルは細身
この音源のボーカルの音質の不安定さはそれなりに出ている

Elly Ameling: 音楽に寄せて

それなりに表情のつけ方は分かる
まずまず

YOASOBI: アイドル

やはり圧は弱い
エフェクトの音が近い
低域が弱い
音の芯があまりなく音楽の骨格感構築感が少なくフワフワする不思議な浮遊感
それなりに細かい音も出ている
まあ悪くは無い

Steve Smith: Drums Stop, No Good

10分経過したが前回の様に悪くならない気がする

ドラムを叩く力が弱く聞こえる
アタックの瞬間の音が出ない感じ
なんか手を抜いて演奏している感じ
とは言え普通に聞けるレベル

SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki: Avid

冒頭からの凛と広がる空間の気配は出ない
ボーカルは程よい温度感
2番に入る所からの打楽器の音の粒立ちや響きの広がり方がヌルい
総じて瞬発力に欠ける表現に偏る
最初より低域は出るようになる

15分経過 下の帯域が出るように変化。多分これが巷で噂されているイヤパッドの時間変化の効果

Sol gabetta: elgar

オケの低域の響きの広がりや量感はなかなか良いバランスになっている
チェロの深みも出ている。惜しむらくは音の張りがかなり乏しいので弦を引っ掻いた時の引っ掻き感が出ない。
あと音像の収束もそれなりで終わる
でもこの演奏はなかなか良い
時間経過による効果でこれが意図した音のバランスなんだろう

ただ、15分経過しないと製作側が意図したバランスにならないヘッドホンはちょっとどうかと思いますよ?

Tak: Freedom

ちゃんと低域は出ている。
でもキレはない。ナタで潰していく感じの低域
やはり音がひとつひとつ甘い。粒立ちが出ていない。
2:12からのブーンという音のグラデーションはそれなりに出ている。
音が結構近い。こなれるとより近くなっている。
楽曲がどうしても重鈍なイメージになる

Suske quartet

まともなズスケだww
きちんと1st violin, 2nd violin, violaは描き分けられている。この前は一体何だったのか
ディテールが甘く張りも今ひとつだが違和感はない。

バランス接続に変更

一通りアンバランス接続を聞いて音質もとりあえず定常状態に達したと判断したので今度はバランス接続に変更。
前回の不感症サウンドが再現されるのか?
楽曲はアンバランス時に聞いた最後から逆に同じものを聞いていく

Suske

アンバランス接続よりもハリが出てディテールも出るように。なかなか良い
2-3分経過 やや音像の芯勝ちに。怪しくなり始める
低域の押し出しは定常状態に達していたアンバランス接続時の最後からは減退。
やはり少し外すとイヤパッドの状態による音質効果はリセットされる。この仕様はつらい

Tak

シングルより音が締まりのディテールは出る
でもなんか怪しい
押し引きも早くなる。リズム感も出てノレる様に。でも音が早くもおかしい。尖った感じの音に

Sol gabetta

ハリは出ているが今度はその帯域が張り出しすぎ。なんか演奏がそれぞれバラバラに聞こえる
シングルの方が全体の調和が取れていて曲想を感じ取れる

SawanoHiroyuki

10分経過 まだ聞ける音質を維持
全体的に音のハリが強すぎてややひび割れる感じの所が出る。
粗くなってきている
質感がざらざら

Steve Smith

スネアのシャリシャリ帯域が強調
ドラムの力感やアタック感はシングルより出てまあ悪くない
それなりにドラムの演奏の表現の描き分けも出来ている

YOASOBI

15分経過
ハイハットの音がちょいシャリってて若干辛い
でもテンポよくリズム感は出ている
細かい音の粒立ちはまずまず。シングルより良い
この曲はバランスの方が良いしなかなか鳴らせている
なぜかここにきて良くなってきた

Ameling

なんかまともになってきた?
悪くない。全方位的に気になる点がほぼない
これなら40万でも良いのでは
ちょっと前の質感の粗さはどこへやら、この時代性を感じる録音の質感もしっとりと表現している
音質が変わりすぎでジェットコースターみたい

(K)NoW_NAME

これも良い。色々と妥当性が高い。
素朴な生なりの質感が良い
定位も決まってきた
低域も不足なく出てきた

逆転満塁ホームラン
これは前回の評価は謝らないといけない

あの花: secret base

また粗さが出るようになってきた?
→この音源の問題が出ているだけ
きちんと3人の声質を描き分けかつ表現の移り変わりも出せている
なかなか良い

NieA: 美シキ歌

良い。この価格帯の観点で文句をつけるところはない
距離感も中庸
音色も妥当
金管もうるさくない
コーラスも程よく人間が描き分けられている
メインボーカルもヨシ

これはコンポーザーさんにごめんなさいしないとね

本日のまとめ

最後の方の音が安定して出るなら良いヘッドホン。40万は高くないどころか諸々のバランスの良さを考えると安いまであるただそれでも見えるものはSGやその次のstealthレベルから一段落ちる。

独特の質感が乗っていて音源なりのものが素通しで見え切らない感覚がある。別の言い方をすると音へのダイレクト感が薄い。ただ、それが生成りでとても心地よい独自の「ニュートラル感」を生み出していてアリだし素地(音源なり)が全く見えないベタ塗りではない。音が素通しで見えるという点では40万というプライスタグからは落ちる。

私の思う「ニュートラル」や「自然」というのはこのヘッドホンの様に独特の質感をうっすら上塗りして出すものではなく、より素通しで音源そのものの表現が見えてかつ機材(システム)独自の癖が付加されないものを言う。ただ、そういう機材(システム)は同時にコントロールが難しく、直ぐにシステムの不備に起因するノイズ等の嫌な音も出してしまう。逆にこのヘッドホンの様に薄塗りでニュートラル感を出せる機材を入れると、所々システムに瑕疵があっても良い感じで安定してくれる。そこにこの系統の機材の価値があると私は思っている。要はガチガチに詰めなくともそれなりにまとめてくれる使いやすい機材ということで、その需要は大きいと思う。

件の「新しい音の切り口」とか「特別な音のバランス感覚」は残念ながら全く分からない。前回の試聴時からこのヘッドホンはむしろ努めてニュートラルにしようとしている様にしか聞こえない。この辺りを期待していると肩透かしを食らうことになりそう。

このヘッドホンには強くはないがさりげなく制御しようとしている意思を感じる。例えば演奏での表現の振れ幅が10あるのを8位に抑えて脱線するのを防止している感じ。飛んだり跳ねたり飛び出したりといった所が若干抑制されている。その分ニュートラル感は出るがどこか平坦で予定調和に感じられる所もある

このヘッドホンの不安定感はどこかYAMAHA YH-5000SEに通じるものがある。安心して聴いていられないというか…。多分まともに音色や質感や倍音に連続性がない。The Composerが上手く鳴っている時はそこが前述の独特の質感で上手く隠せている。しかし時折垣間見えてしまうこともある。

このヘッドホンに安定性が無いのは温度なのか、湿度なのか、電源環境なのか、外来ノイズなのか何かしらの外的要因に弱いのか…。少なくとも前回と今回で確認したのは3パターンの不安定感。1つ目は巷で言われてるパッドの形状変化による音質変化でこれは約15分経たないと安定しない。2つ目は前回(感度の異常とも言える低下)と今回(感度の低下なし)の大きなマイクロダイナミクス方面での音質の差。最後の3つ目になんか安心して聴いてられない変動が細かくある感じ。

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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