Audeze LCD-5 試聴レビュー

今回の記事ではAudeze LCD-5をショップで試聴した印象を書いていきたい。試聴の目的は自分のシステムに導入するヘッドホンの選定。試聴システムにMSBのハイエンドDACとHPA等を使用して何回も本気で聴き込んだ内容を記す。

LCD-5は個人的にヘッドホン回帰の初期段階から導入候補のメインどころとして何度も試聴してきた思い出深い機種である。なので、今回はその試聴毎の感想を時系列順に書き出し、最後にまとめを記載する形式とした。それぞれの回の試聴記の最後に当時の状況補足を記載したので、その文脈も含めて読んでいただけると把握しやすいと思う。

また、最終結論のみを見たい場合は目次からまとめに飛んでいただきたい。

目次

試聴1 2022.5.25

試聴場所:中野の某ショップ

試聴システム

DELA N1A

MSB Discrete DAC plus

Violectric V550 Pro or Niimbus US 5 Pro or MSB Premier HPA

Audeze LCD-5

ヘッドホンアンプ試聴のお供として使用。今日の本題では無かったこともあり、まだまだ全貌が捉えられない

思っていたよりかなり軽い、装着感もなかなか良い。苦痛なく普通に使える。お前本当にオーデジーか?

聞く人の意識に追随してどこまでも細かいディティールが視える。深い湖の底を覗き込んでいて、視ようとするほどに水は透明度を増してより深層が見えてくる感じ

マイクロダイナミクスにかなり優れている。視える感度がこれまで経験してきたヘッドホンとは違う。

懐の深さを感じる。まだまだ前段の向上について来れそうな感触。

だが先日Focal UTOPIAの試聴時 に直感的に感じたヘッドホンのハウジングの制限から解き放たれた様な、スピーカーの世界観と共通した領域に踏み込んだ新世界の様なものはない。従来から私が感じてきたヘッドホンという音の鳴り方の範疇に留まる。

とりあえず現状ではまだ捉えきっていないので今後追試が必要。Focal UTOPIAを抑えて現状の最有力候補。でもヘッドホンの範疇に完全に収まっているのが気にはなる。

※当時の状況補足
この年の春からヘッドホン回帰で色々と聞き始めた初期段階になる。ハイエンドヘッドホンはUTOPIAを試聴した程度の経験値。

試聴2 2022.6.9

構成は前回と同じ。同日にHiFiMAN SUSVARA, Meze ELITE, Final D8000 proを試聴

帯域バランス良し。下支え十分。どっしりと腰が据わって音楽の座りが良い

音を司るほぼ全ての項目に於いて違和感なし

音色の妥当性が高い
ただ、少し音色的・表現的に硬直する帯域がある。なんとなくケーブルで解決しそうな感じはする。

音の線も普通で妥当。何の違和感もない。細すぎず太すぎず変な癖もない。

音場は綺麗にかつ妥当に広がる。スピーカーと同じ構成の仕方であることがわかる。しっくりくる。忠実度が高い。前後が出ない頭内であっても変化球を投げて独自の立体感を出す方向性(=Meze ELITE)ではなく、音源に入っている音場の情報をそのまま出してくる感じ。

情報量追随性が高い。アンプが温まるに従って細かい音が異常に湧き出るのが分かる。システムのレベルアップに対する追随性は高い。天井はまだまだ見えない。

音数の多さを認識させる方向性。音の細かな一粒一粒に音として認識させる強さがある
(比較してHiFiMAN SUSVARAは音数の多さを透明感に昇華している感じで殊更に認識させない方向性)

やはり試聴2回目にしてまだまだ底が見えない
ヘッドホンの中では忠実性が高いが、SUSVARAのように「自然」という言葉は出ない。自然界の音の様に持って行くのではなく、オーディオの音という枠内での高忠実性を守っている感じ

※当時の状況補足
試聴1の経験に加え、この試聴2でめぼしいハイエンドヘッドホンを複数試聴。少しずつハイエンドヘッドホンの経験値が蓄積されてきた時期になる。

試聴3 2022.9.7

Dan Clark Audio Stealth試聴の比較対象として使用

音色的にやや変に感じる帯域があった

音色の温度感は気にならないが、LCD-5は何か変な癖がある。微妙に音痴に感じるところがあるというか…

あと表情が硬くつっぱる感じの帯域があるのも個人的にやや減点。でも総合的にはヘッドホンでは一番高いと思っている。

※当時の状況補足
いよいよDCA Stealthが登場し対抗馬のレベルも上がり、自分の中のハイエンドヘッドホンの経験値も十分になってきた時期。LCD-5に対してもかなり冷静になり、ネガティブな所が気になり出している。

試聴4 2022.12.6

Focal UTOPIA SG試聴の比較対象として使用

やや側圧が強い。パッドの感触は硬めで好き

以前よりモニター感を強く感じる

LCD-5では足枷となってMSBの質感と音色方面の性能がスポイルされているのがわかった

・ズスケ
音色が何か変。キリッとしすぎている。弦のふくよかさが出ていない
音像が締まる
響きの量がやや少ない。ややドライ

・ブレハッチ
弦より良い
ピアノの冷たさが出る
やはり響きの量が少ない
基音勝ちで硬すぎる
ピアノのボディ感や弦感が乏しい

・Perfume
やはり声に違和感
基音と倍音の構成がおかしい。よって音色も若干違和感が出る

・コリンメイ
肉声感が不足
声に癖が出る。高域につっぱる帯域
音色の自在性、柔らかさがやや落ちる

・薔薇の騎士
音場の広がり方はヘッドホンで1番
音色の乗りがやや乏しい

・ペッパー
悪くないけどやはりサックスの音色がややモノトーン

・マッシュルーム
押し引きの追随性は良い
レンジも十分

・アメリング
ちゃんと鳴っているのにやはり音色面で物足りない。MSBにしてはモノトーン

・Zedd
音の細かさが足らない、少し雑
押し引きは十分

※当時の状況補足
11月末にFocal UTOPIA SGを聴いて苦節8カ月ようやく納得できるヘッドホンと出会った後の時期。この日がUTOPIA SG購入の最終確認で以前最有力候補だったLCD-5と比較。そしてLCD-5はUTOPIA SGの前に散った。。。
この後このままUTOPIA SGを購入した。

試聴5 2023.5.15

MSB Premier DDの試聴の際に久々に使用試聴4の後に導入し盤石のリファレンスの地位を確立したUTOPIA SGと比較

やはりディティールの表現力はUTOPIA SGから1-2段落ちる
音数が少ない
情報量追随性がついて来れてない
音の精細度が結構落ちる
表情の作り方が硬い、ぎこちない

※当時の状況補足
久々にLCD-5を聴いて感じ方を確認するもやはりUTOPIA SGに軍配

まとめ

最後になったが、LCD-5についての最終結論を記す。

Audeze LCD-5の音質

Pros

  • 音場の広がり方の妥当性はヘッドホン界No.1 奥行き方向の脳内での畳み込み方が秀逸
  • 押し引きの追随性が高い
  • UTOPIA SGからは落ちるが情報量追随性、細部の描写力ともに高い

Cons

  • 質感の自在性にやや気になる所がある。表現が突っ張る帯域がある
  • 音色の自在性にやや気になる所がある。ややモノトーンに偏る
  • 基音勝ちで倍音が出にくくアコースティック系の妥当性にやや気になる所がある

UTOPIA SGの登場により一番割を食ったヘッドホン

情報量追随性、細部の描写力ともにヘッドホン界の中ではかなり高くそこがストロングポイントなのだが、そのストロングポイントに於いてUTOPIA SGは更に2-3枚上を行ってしまった。。。

表現力や音色の自在性にはやや硬直する所が見られ、この方面でもUTOPIA SGやSUSVARAやSTEALTHには及ばない。ここもモニター系ヘッドホンにしては優秀なのだが。。。

とはいえ、音場に関してはヘッドホン界でもNo.1で奥行き方向の脳内での畳み込み方が秀逸。そのためスピーカー的な聞き方をしても違和感が出にくい数少ないヘッドホン

このLCD-5は2021年発売で、当時であれば総合力ではトップだと言えただろう。だが、2022年発売の強力なライバル達が出た今(2024年5月現在)となっては積極的にこのヘッドホンを選択する材料は正直言って少ない。が、上記の音場の構築性の素晴らしさを軸にモニター系の硬派な鳴りっぷりは今でも十分に魅力的。各項目に大きな穴もなく、総合力も高いのでハマる人はハマる可能性は少なくない。ハイエンドヘッドホンを検討するのであれば一度は聴いておきたい機種だと思う。

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この記事を書いた人

主にオーディオについて感じた事を書いています。
古いクラシックがメインですが、新旧ジャンル問わず音楽を楽しむスタイルです。

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