今回は少し前にショップでMartenのスピーカー3機種(Mingus Septet, Mingus Quintet 2, Parker Duo Diamond Edition)を比較試聴させていただいたのでその印象について記す。
注意点として、私はMarten Coltrane 3を所有して普段から聞いているので、今回のスピーカー3機種の音質評価の際にもColtrane 3のイメージと比較してどうなのかという観点が自然と入っていると思われるのでご注意いただきたい。
試聴環境
試聴は都内のショップで行った。いつもありがとうございます!
試聴システムは以下
Taiko Audio SGM Extreme
CH Precision C1.2
Pilium Alexander
Pilium Hercules
Marten Parker Duo or Mingus Quintet 2 or Mingus Septet
この他、ケーブルはNordostのValhalla2シリーズを中心にハイレベルにまとめられており、Martenの良さを上手く引き出されていた。以前から何度か言っているが、ショウで組み合わされるMartenとCrystal Cableの愛称はあまり良くない(AccutonダイヤモンドツイーターおよびセラミックミッドとCrystal Cableとの描写の粒度がマッチしない)と感じており、今回のValhalla2の方が相性の良さは明らかに上だと感じた。代理店さんのご都合もあると思うが、もう少し相性を考えて出来るだけ主役であるスピーカーの良さが引き出せる組み合わせでプレゼンして欲しいと切に願う。
Marten Perker Duo Diamond Edition
今回試聴させていただいたのはParker Duoの中でもAccuton製ダイヤモンドツイーターを搭載し、Jorma Design Statementを内部線材に使用したDiamond Ediotionになる。方式は2way密閉型パッシブラジエーター。
高域の伸び、音場の広がり方はMartenの血族。スパーっと広がる音場を聴いて思わず笑みが漏れてしまう。色々なスピーカーを聴いてきたが、こういう広がり方をするスピーカーメーカーは他に知らない。これに惚れたら脳死でマーテンを選んでも後悔はしないだろう。
音色は透明感が高く清廉なイメージ。やや明るめの美音。バス&ミッドレンジはよく出来ているが、上位機種と比べると受け持つレンジの広さによりやや無理が出ている。具体的には質感表現に濁りや澱みを感じ、やや音色もズレる方向に引っ張られる感じ。例えばショルの歌唱のカウンターテナー的な透明感がややスポイルされていてちょっと音域の重心が下に聞こえる。
パッシブラジエーターにより低域はブックシェルフとは思えないほど量感が出ており(ちょっと出すぎじゃね?と思うことすらあった)帯域も結構下まで出ている。オケのスケール感も十分で大編成の音源も賄えそう。ただ、音源によりパッシブラジエーターが急に頑張り出す時があり、その際はちょっとイメージと違うと感じることもある。
Marten Mingus Quintet 2
方式は3way底面バスレフ型。
Parker Duo Diamond Editionの価格3倍以上は伊達じゃない。その価値は十分に感じる。正直レベルがかなり違う。
とにかく中高域がクリーン。Duoに比べて格段に被りや濁りが少ないことが音からすぐ分かる。
結果として感知出来る音の細やかさがかなり違い、実質的に感知出来る音数がかなり違う。
それによって音色や表現力の細やかさ、中間的な色や表現が出せる。
音の端々から箱の剛性の高さを感じる。タイトで制動が効きやすい。それによりリリースで音を濁さない。ぶっちゃけここはColtrane 3よりも良い点だと感じる。
音場の広がり方はスパーっと後方に綺麗に広がる。Parker Duoの時も笑みを浮かべたが、Mingus Quintet 2では思わずニッコリしてしまう。前述した中高域のクリーンさ、箱の剛性の高さが音場表現にも露骨に効いている。音場の後方展開の距離がより深くなり、音場空間の構築の揺ぎ無さが上がる。ビシッと決まって揺らぎが無いイメージ。
まさにこの機種は私の思うマーテンらしさを体現するスピーカーであり、一度は聴いていただきたい一押しのスピーカー。
腕に自信のあるオーディオファイルが追い込むならコレ。
Marten Mingus Septet
方式は4way密閉型パッシブラジエーター。この機種からツイーターとミッドハイのスピーカーユニットがそれまでのAccuton製からMartenの内製に切り替わっている。これからのMartenの音の方向性を指し示す意欲作。
スケール感はMingus Quintet 2より2回り大きい。
スピーカーの方向性は従来のMartenらしさから出発して中庸に寄せた位置取り。完成度はとても高い。
音色はややDiamondコートを施したMagicoみがある
フワッとした音像
音色は暖かみがある
従来のMartenよりもより多くの人に受け入れられやすい心地よい音色で嫌な音は出にくい
その反面従来のMartenのイメージからすると微妙にピントがヌルくピシッと像を結ばない
更に立ち上がりが微妙に緩くなる感覚
音場の広がり方はスピーカー中心に前後。Mingus Quintet 2よりも音場空間全体が前に来る。
音離れはMingus Quintet 2よりやや減退。やや曖昧さがある。
ラグジュアリーオーディオ的に上質でゆとりのある音質をさほど苦労せず纏めたいならコレ。
Martenの特徴とB&Wとの比較
(従来の)Martenの特徴
(従来の)MartenのMartenらしさとは、音の立ち上がりが早くかつ揃っている事。
言い換えると音の起こりの時間軸の精確性がとても高い。
それにより音像の結像のピントの合い方
更には音場空間の構築の揺るぎなさブレのなさクリーンさ
更には音色の妥当性の高さ
あたりが引き出されている。
プラスAccuton製ダイヤモンドツイーターによる音数の多さ、音色の多彩さ、表現の多彩さ、更に表現の軽さが加わる
vs B&W 800series(D3以降)
「ダイヤモンドツイーター」を有するスピーカーという点で共通点のあるB&W 800seriesとざっくり比較してみる。
立ち上がりを聞いているのか立ち下がりを聞いているのか、時間軸を見ているのか帯域バランスを見ているのか、辺りがどちらを選択するのかのポイントになる。前者ならMarten、後者ならB&Wを選択すると幸せになれるだろう。
抽象論から入ってしまったが、具体的には、低域の制動感はB&Wが断然感じられ、多分ここで勝負ありになってしまう人も少なからず居ると思われる。
逆に時間軸という点では、Martenは上から下まで揃っているのに対しB&Wは高域が進んでいる様に聞こえる。こちらも数は少ないだろうが気になる人はその時点で勝負ありである。
Mingus Septetが指し示すハイエンドオーディオの針路
今回の試聴の中でMingus Septetの音を聴いて、前々から感じていたハイエンドオーディオの進みつつある方向性を改めて感じる事となった。その方向性とは多くのメーカーが「全方位的に高得点が取れる方向」に進んでいるということ。
良い取り方をするならば、より成熟した穴の無い嫌な音を出さない音質に全体が寄って来ている。その代わりそれまでの各メーカーの得意分野やアイコンとなっていた項目はやや後退している。今までとんがっていた部分を均して他にパラメータを振った感じ。より手間をかけず纏めやすくはなったが、感触として得意分野での最高到達点はそれまでのものよりやや下になるのではないかと感じる。
これはMartenだけでなく、ここ数年の各メーカーの新製品を聴いていて少なからず感じる所だ。例えば私自身は未聴だが、巷の評判を見るとYG Sonja 3も同じ方向に進んでいる様に見える。とんがったオーディオの極致と言えるようなYGでさえ中庸に寄せてきているのだ。
これまでのハイエンドオーディオの愉しみ方として、いわゆるF1マシンをセッティングするかのようなものがあった。ある種ピーキーながらもポテンシャルの高い機材を組み合わせ、時には酷い音を出しながら苦労してそのポテンシャルを引き出す。購入検討時もショップ等で鳴っている音から類推し自分が重視する項目でのポテンシャルがあるかこれまでの経験値を動員させて半分直感で決断する。
そういったいわばマニアの世界から、購入検討時からある程度まとまっていて完成形をイメージしやすい音が出ており、自分のシステム導入後もそれほど苦労せず80点の音は出せる。こういうラグジュアリーな方向性へ、ハイエンドオーディオの潮流は向かっている様に感じる。
これが良いことなのか、それともそうでないのかは現時点では何とも言えない。ただ、自分のやってきたオーディオというもの自体が変わりつつあることに一抹の寂しさを感じてしまう。
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